11月の半ば、今週末12月3日(土)から開催する『藤吉憲典展』に先立って、藤吉さんの工房を訪ねました。
前回工房を訪ねたのは、随分前で、まだ藤吉さんが佐賀にいらした頃。
その後、福岡県の津屋崎に移転なさってからは初めてです。
新しい工房は「古民家を改築した工房兼ギャラリー」というお話を伺っていたので、ずっと行くのを楽しみにしていました。
古民家、憧れなんですよねぇ♪
で、訪ねた工房兼ギャラリーが、上の画像。
なんでも、築90年にもなる民家で、元々は商売をしていたそう。
窓に美しい縦格子のはまる趣きのある建物は、藤吉憲典さんの作品に通じる美しさがあって、そこにいるだけでドキドキしてしまいます。
その素敵な工房で、いろいろお話をうかがってきました。
工房を移転されてから今年の前半までは、特にアート作品に力を入れ、海外へも進出し、意欲的にご活躍なさる様子を拝見していました。
そして、その影響からか、本当にここ1年ほど、ももふくに入荷してくる器たちも、その作りや表情が、さらに洗練され美しいものとなっていることに、感嘆するばかりでした。
この場所にきて、その秘密が少し、わかってしまった、かも。
藤吉さんは、意匠から轆轤、絵付け、までを全て一人でこなす作り手です。
「作家」は全てをこなす人も今は増えてきたのですが、染付の器は、もともと分業で作られてきた歴史があります。
特に、藤吉さんがベースとしている「鍋島焼」は、昔から、轆轤職人、絵付けは、線を描く職人と、ダミ(色を塗る)職人、本焼きの職人、など、工程ごとに細かな分業体制が敷かれていました。
これは、今でも、その体制が受け継がれていて、大きなメーカーや窯元では、すべてを一人で作った器というのは、まずありません。
が、作家は、すべてを一人でこなす。
藤吉憲典さんも、そういう一人です。
轆轤には轆轤の技術、絵付けには絵付けの技術、焼きには焼きの技術、それぞれ全て一人でまかない、全てを磨いていかなければならない。
そこで、アート作品。
アート作品と向き合うことで、器だけを向いていたときよりも、さらに多くの技術、技法、というものを会得することで、新しい世界に踏み込んでいる。
だから、器の細部に渡り、それが生かされる。
アートと器との違いが、明瞭になる。
器で必要とされるもの、それが器に表現されている。
そんなふうに、感じました。
画像ではわかりにくいかもしれませんけれども、線の一本一本の緻密さ、これがすごくて。
藤吉さん、全く下絵などはしないので、全て、その場で即興で描き込んでいくのだそう。
藤吉さんの器は、表面的な仕上がりの均一な綺麗さを求めるのではなく、土と釉薬と炎の力で作り出す、自然のものにゆだねられたものだけがもつ美くしさを追求している。
土は有田の磁土(轆轤成形が難しい)、絵付けは下絵なし、そして土も釉薬も顔料も、その時々の状態によって変化してしまうもの、そういう不安定な要素が詰まったもので作られている。
その「ゆらぎ」のあるものだけがもつ魅力を、存分に湛えた器。
だから、繊細な仕上がりが、美しい。
一筆一筆の線が、美しい。
そういうものなの。
いってることが、全く伝わらない、かもしれないけど。
器、手にすると、わかる。
食卓に並べると、わかる。
そんな器が、並びます。
藤吉憲典展。
染付の美しさを堪能しにいらしてください。
2016年12月3日(土)〜10日(土)
12時~19時 最終日17時まで
会期中無休
近年はアート作品に意欲的に取り組んでいる藤吉憲典さん。
今回は「食器を沢山作っていきます」とおっしゃっています。
アートと向き合ったからこそ、食器という「用途のあるもの」
への思い入れが増しているのだそう。
絵付けだけでなく、その細部のつくりまでが美しい器を
ぜひ手にしにいらしてください。